はじめに
言葉は、ただ情報を伝えるための記号ではありません。受け手が「自分に関係がある」と感じるか、「何をすればいいか」がわかるか、そして「気持ちよく動けるか」――そのすべてが、たった一言の選び方に左右されます。
先日受けたコピーライトの講義でコピーライターの方がこう語っていました。
「コピーは“何を言うか”よりも、“どう言うか”が重要」
これは、「君が好き」という、1日に何億回も伝えられているだろうテーマを「どう言うか」についてのお話です。
このことは、コピーに限らず、様々な伝達に通じることだと思いました。
そして、それは今私が行っている操作動画制作にも通じるものです。
学校向けのアプリ操作説明動画では、栄養教諭・先生・保護者といった異なる立場の視聴者に向けて、アレルギー対応の手順を説明する必要があります。 その中で何度も悩んだのが「読む人に伝わる言葉」は何かということでした。それをコピーを通してお伝えします。
1.「意味は同じ」でも伝わり方が違う
たとえば、次のような言葉。
言い換え前 | 言い換え後 |
---|---|
皿 | スープ皿 |
ごはん | 離乳食 |
子ども | 児童 |
休日 | 仕事からの解放日 |
読書 | 活字を通した自分探し |
言葉自体の意味は同じでも、使われ方や場面に合わせて選ばれることで、読み手の中に浮かぶイメージや温度感はまったく異なります。
たとえば「皿」と言われるより、「スープ皿」と言われた方が、そこに入る料理や扱い方までが立ち上がってきます。それだけでも同じ「皿」を伝えるにしても相手にとっての言葉の価値が変わります。スープ皿と自分の体験や思いが重なっている人は、スープ皿という言葉を使うことで初めてその言葉に反応して価値を感じます。
また、「子ども」と「児童」では、読み手との距離感が変わります。どちらが正しいか、ではなく、「誰に向けて、どんな印象で届けたいか」によって選ぶべき言葉は変わるということです。
これは、コピーライティングでよく使われる構造――
APPEAL(発信者が言いたいこと)と WANT(受け手が欲しいこと)
この2つがちょうど重なり合う言葉を探すことが、コピーの本質だということです。
操作説明であっても、こちらが正確に伝えたい情報(APPEAL)と、受け手が「自分ごと」として自然に理解・行動できる言葉(WANT)の交差点を探すことで、ようやく伝達が成立します。
2.実際の制作現場での試行錯誤
操作説明動画を制作する中で、最も悩んだのが「児童・生徒」などの対象の表記でした。
最初は、アプリ内で使用されている「在籍者」という言葉をそのまま使っていました。しかし、初めて見る保護者や先生にはなじみがない。「この言葉はどうすれば見る人の理解と紐づくのか?」という悩みが生まれました。
- 先生には「児童・生徒」
- 保護者には「お子さま」
- 栄養教諭には「アレルギー対応者」
このように、伝える相手や利用する場面によって“ちょうどよい言葉”が違う。そこで、文中に補足を入れたり、説明相手に合わせた言い換えをするようにしました。
また、「施設」「提供グループ」などのアプリで利用される言葉も「学校」「同じ献立を提供する範囲」といった表現にすることで、利用者が使っているイメージしやすい言葉にしました。
そうして保護者や先生が理解しやすい言葉にすることで、自分たちが認識する言葉と相手が認識する言葉の橋渡しをしていきました。
3.よい言葉とは「伝える」ではなく「届く」言葉
私も正確に伝えることに終始しがちですが、相手の反応を見た時に、言葉は“正確である”ことも大切だけど、“相手に届く”ことの方がもっと大切だと実感します。
受け手が「これは自分に必要な情報だ」と感じられる言葉。 読んでいて心が動き、次のアクションが自然と選べるような言葉。
それが、コピーライティングでいう「よいワーディング」なのだと、感じています。
4.ワーディング(言葉えらび)の実例:どのように言葉を選び、どんな変化があったか
- 悩んだ場面:操作説明動画のテロップ制作。先生、栄養教諭、保護者など、立場によって伝わりやすい言葉が異なる。
- 当初の表現:「在籍者」など、表記揺れを防ぐためアプリのままの文言を使用。一般的でない言葉なので注釈を入れる。
- 意図と変更:より日常的な言葉(児童・生徒/お子さまなど)も採用。補足説明も継続実施。
- 結果:利用者の混乱(言葉と自己認識の紐付け作業)が減り、相手が操作の理解に集中できるようになった。
- 学び:「よい言葉」とは、伝え手の都合ではなく、相手が同じ像を思い描ける工夫された言葉。
まとめ:言葉は、届けるために選び直せる
“ただの説明”と“伝わり動いてもらう説明”の違いは、ほんの数文字の違いに現れます。
誰に向けて、何を、どう伝えるのか。 その意図を丁寧に言葉に落とし込むことで、相手の理解だけでなく、信頼や行動にもつながっていきます。
コピーライティングの視点を取り入れることで、どんな文書も「相手に届く言葉」に磨いていける。 そう実感した今回のワーディング設計の経験は、今後のすべての伝達に活かせると感じています。
そのためにも日々言葉をただの記号としてスルーするのではなく、その言葉の意味や表現の仕方について考えて言葉に触れていきたいと思います。
参考サイト
・言葉で心を動かす「コピーライティング」基礎知識
https://www.mindfactory.co.jp/blog/8227
・コピーライター養成講座 下東史明クラス
https://www.sendenkaigi.com/creative/courses/lp-cac_shimohigashi_live/
・「何かのマニアになる」ことは、強力な武器になる
https://www.tokyo-designplex.com/pmsgdetail/fumiaki_shimohigashi/
・言葉が上手くなる超簡単なテクニック
https://00m.in/RQYlw